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ステンレス加工の備忘録:チャラ男のチタンはアバタ肌~なぜ鏡面仕上げが難しいのか?

VINA ASTECチタンの鏡面仕上げに取り組んでいます。チタンという金属は耐食性に優れステンレスより軽量で埋蔵量も比較的多い金属ですが、切削や研磨などの加工は「やっかい」だと言われているようです。また研磨で鏡面仕上げするのもかなり難しいといいます。一体なぜなのでしょうか?

チタン(Ti)は何とでも反応しやすい難削材

そこでJ-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)で資料を探し、素人なりに理解したことをノートしておきます。あくまでも素人解釈です。

 

チタンはレアメタルなのに埋蔵量は無尽蔵!?

レアメタル※1」とは、地殻中の埋蔵量が希少(レア)であるものと、採掘や精錬などのコストが高く流通量が希少(レア)であるものを言います。チタンは埋蔵量では金属中4位の豊富さであり「実質的には無尽蔵」とも言われます。しかしチタンは精錬や加工が難しいため値段が上がり流通的に希少という意味のようです。 ※1:レアメタル:rare metalは和製英語で、英語ではminor metalという。

レアメタルのチタンは埋蔵量は金属4位の豊富さ

 

難削性(なんさくせい)で難クセつけられるチタン

難削材と呼ばれる材料は「めちゃめちゃ硬い!」「削ると高温になる」等など、手を加えようとするとイラッとする特性を示すものです。「削ると玉ねぎの腐ったような匂い※2がして吐きそうになる」的な材料があればそれも難削材ですかね・・・おっとこれは? チタンは「工具との親和性が高い」という特性があるようですよ。※2:メタルカプチン:動物のうんこなどに含まれ口臭や屁の悪臭成分。おえっ。

チタンのアバタ肌は高反応性の結果
一般的なバフ研磨後のチタン材料表面。アバタや切削痕が多く見受けられる

 

「親和性が高い」って褒め言葉のようにも聞こえます。しかし材料と工具は愛し合ってはいけない定めなのです。もとより工具側にはそんな気などサラサラない。チタンが一方的に刃物や砥粒※3に好意を寄せてまとわりついてきやがる。くっつかれた工具は必死で振り飛ばそうとします。その時に自分の刃や砥粒も持っていかれて寿命を削られたり、振り飛ばせず砥粒についたまま材料を削ってかえって深く傷付けたり・・・。チタンのそういうネチッこさが職人さんから嫌われるんですね。※3:砥粒(とりゅう):研磨材を構成する一つ一つの粒。非研磨材を削る刃として働く。

 

工具との親和性が高い金属は嫌われ者

 

なぜチタンはまとわり付く性格なのか?<高反応性>

チタンは、「ハイなパーティーでめちゃくちゃ社交的」に振舞うチャラ男なのです。つまり高温環境下で数多くの元素と手当り次第に関係を持つ性格の元素らしいです。なので、研磨という超ハイになれるパーティーでは、砥粒やその糊材、その他炭素・コバルト・窒化物・・・辺り構わず反応合体しまくって、その結果物がその辺りにベチャベチャと付着しまくります。

 

チタンは高反応性金属材料

 

発散できずに溜め込むチタンにこもる熱<低い熱伝導率>

研磨などの加工に熱はつきものです。悪いことにこのチタンは熱をスルーできず溜め込む性格も持っています。熱伝導率が鉄の1/4ほど、つまり受けた熱を「はいどうぞ」とスルーできず内部にドヨンと溜める。褒め言葉も誹謗中傷も溜め込む。そのためどんどん高温化、あの嫌な「まとわりつき性格」がさらに加速してしまうのです。

熱伝導率が低い熱籠もりのチタン野郎
溜め込むのはカラダに悪いでしょ。ちゃんと抜いて爽やかに生きようよの図

 

粘りが無くメゲて傷つきやすい性格?<塑性変形大きい>

おまけに、加工のストレスに負けずビヨ~ンと復元する粘り強さに欠けます 。なので表面をシャカシャカ研磨してやると、ボロッ!ベリッ!とメゲたり、ブチッ!と切れる・・・この「掘り起こし」や「むしり取り」が容易に生じるので、磨いても磨いてもスベスベにならず、いつまでもアレたお肌で不機嫌なんです。

チタンは塑性変形が比較的大きい金属で削りにくい
スパッと斬れてくれりゃあいいのに、ボコボコ、ボロボロになっちゃうの図

 

手も早いが終わりも早い。最後まで溶かしてほしいのチャラ男さん

じゃあ電解研磨でなんとかならないか?と素人的には思ってしまいます。チタンはチャラいヤツなのでアッ!という間に酸素さんとも仲良くなり不動体を形成します。ところが彼は「えっ?チャラ君もうイッたの?」的な早撃ち淡薄ボーイ。電解研磨では金属表面の凹凸溶解がほぼ進んでないのに、始まったらアッという間に不動体膜ができイッてしまうんです。それ以上研磨反応が進まなくなるので期待ほどの表面平滑化は得られない・・・ってことに。愛は時間をかけて溶け合っていくのが良いですね。※4:電解研磨:EP(Electropolishing)電気分解で金属の凸部を溶解しながら不動体膜を形成する。

 

そんなチャラ男をしっとり磨き上げるか電解複合研磨

チタンの鏡面化への対応で「コロイダルシリカ研磨」や「電解複合研磨」という言葉が出てきます。なかでも「電解複合研磨」の方は自社の技術資料に図が載ってました。コレがチャラ男を生まれ変わらせる愛の電解研磨になるのでしょうか?

チタンを鏡面化できるか複合電解研磨(日章アステック)
電解複合研磨装置の構成図(パンの電解液に材料を浸漬して行うタイプ)

 

1.電解研磨で凸部が溶解し切る前に不動体膜ができる
2.それを物理的に研磨しながら電解研磨を行う。
3.削られた部分は不動体膜がなく通電しやすいので優先的に電流が流れ溶解と不動体膜の形成が進む

被研磨材の複雑な形状に対応するために、実際はパンに電解液を満たすのではなく、不織布のバフへ研磨剤(砥粒)入り電解液をバフに流し込みながら研磨を行うようです。

 

チタンを電解複合研磨する
電解複合研磨のイメージ(想像図)

なるほど、チャラ男が不純な結合をする前に不動体膜にして身を固めさせる。そしてすぐ研磨して剥ぎ取る。このサイクルを繰り返せばより高い平坦度の鏡面が出来上がるらしい。

 

アバタ顔のチャラ男からツルツルお肌の美少年へ

素人考えだと、どんな金属も「磨けば光る」というイメージがあります。しかし難削材のチタンは素人常識を覆す「究極のデコボコ肌したチャラ金属」だということが理解できました。VINA ASTECと日章アステックの職人さんに徹底的に磨きあげて頂き、チャラ男を美肌輝く美少年にしていただきましょう!

チャラ男金属チタンはツルツル美肌の美少年に変身

参考資料:「チタンの砥粒反応性と研磨」宮川修 -日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society 1998 、「材料評価における元素分析に影響を与えないコロイダルシリカ研磨剤を用いた資料作成の最終処理について」市田恵美 -まてりあ第44巻1号2005、「画像解析 による砥石作 業 面 の評価 (第 1 報) ~砥粒 お よび切 れ刃摩耗 面分布 のポ ス トプ ロセ ス測 定」細 川 晃 ・ 安 井 平 司 ・ 鐘 尾 幸 久 ・ 佐 藤 郁- 精 密 工 学 会 誌 Vol. 62, No. 9, 1996

: 2021/05/24

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